第3回から実に15年ぶりに第4回古琴打譜会議が、古琴の有名な流派の一つである虞山派のゆかりの地、常熟で行われました。
打譜は、古琴専用の楽譜である減字譜(あるいは文字譜)に速度やリズムの指定がないため、特に伝承の途絶え減字譜のみになった曲を復活演奏し記譜定着させるという、古琴に独特な試みです。
打譜は、一方で琴曲の分析はもとより琴譜や音楽学や当時の歴史や文化背景に対する極めて厳密な客観的学術的な態度(「音楽考古学」の側面)、他方現代に生き生きとした古代の音楽を復活するという芸術的創造的な能力(いわば「模倣的作曲」の側面)が要求されます。“小曲三月,大曲三年”といわれるように、経験と熟考が必要とされますが、曲を作りあげていく上には、さらにプラスアルファの閃きをともなった琴家の総合力が問われます。
特に20世紀後半、《神奇秘譜》《西麓堂琴統》など明代以前の古曲を保存する琴譜が再発掘され、《広陵散》《酒狂》など未知の曲が陸続と打譜されて以来、古琴の世界にとって最重要な課題のひとつとなっています。
今回の打譜会議は、中国大陸各地また香港、台湾、海外から100名以上の琴人が集まり、47人が自らの打譜を演奏し、30人ほどが打譜についての見解を発表し、またお互いの未知の打譜に耳をかたむけました。
以下にまず日程などをあげ、会の様子について引続きのべていきます。(文中敬称略、なおこのレポートは一個人の見方によるものであることをお断りいたします)
正式名称:全国第四届古琴打譜会曁国際琴学研討会
主 催:中国芸術研究院音楽研究所
常熟市人民政府
場 所:常熟尚湖畔 上海工商銀行培訓中心
打譜曲目:
大会規定:《関雎》《修禊吟》《山中思友人》《離騒》
自選曲目:《西麓堂琴統》《神奇秘譜》《風宣玄品》《大還閣琴譜》
正式代表は以上の2類から各1曲を選択
第四回古琴打譜会議日程
8月20日(一) |
前日、19日は晴天、北京から夜行で蘇州につき、長距離バスに乗りかえ常熟まで。水郷や工場や小さな鎮(町)などのある江南の平地を2時間ほど走ると、前に低く拡がる青山が見えてきます。これが明末清初に隆盛をきわめた古琴の有名な流派や、王翬を代表とする文人山水画の正統をうち出し清時代をつうじて影響力のあった流派にゆかりの、虞山です。
虞山ふもとにある常熟市博物館に行き受付。尚湖の会場行きの最後の車が出るまで時間があったので、受付を手伝っていた館員の方に展示を案内していただきました。比較的新しいこぢんまりとした博物館ですが、地方の特色をだした展示をしています。漢の玉印などの玉器、磁器によいものがありました。その他、清末から民国の扇面の展示。
尚湖行きの車で隣に座った黒いTシャツの気さくな方は、今回の常熟側の世話役の人かと思い、あの山が虞山ですか、あそこの白い建物は……などと阿呆な質問をしながら会場に着きました。翌日の開幕式で、今回の総責任者である北京の中国芸術研究院音楽研究所の喬建中所長とわかり恐縮。
会場の上海工商銀行度假村は、亭のある池を中心にゆったり建物を配置したリゾート施設の趣き、近くに尚湖をひかえ、部屋は新しくなかなか良い環境です。
ここで登録をすませます。会議日程の冊子、名簿などきれいに印刷されプラスチックの簡易カバンにセットされています。特にその中に参加者一人一人の刻印1顆が入っており、名簿はその印を印刷した印譜形式になっていてこっています。
8月20日(月) 第1日目
会場は池をはさんだ別棟の100人ほど入れる会議室で行われました。2台のビデオカメラと録音機がまわります。音はアンプを通して拡大されますが、音質は微妙な音色を伝えるほど良いものとはいえません。聴衆には蓋付き磁器のお茶が用意され、午前午後の間にはそれぞれ休憩として別に茶菓の時間がありました。
開幕式のあと、さっそく打譜の発表になります。
午前では、汪鐸(呉門琴社)の《西麓堂琴統》から「崆峒問道」の悠揚とした打譜演奏が印象にのこりました。
午後では、陳長林(北京古琴研究会)の《西麓堂琴統》からの「離騷」と「春思」がさすがです。
この日最も強く印象に残ったのは、李明忠の娘、若い李村(西安音楽学院)の《神奇秘譜》からの「離騷」の実験的な打譜です。
どんな点が実験的だったかというと、五音以外の中立音、中間音(変化音)を強調する 原譜の装飾音の指示に逐一忠実に演奏(指法は何を根拠にしたか、飛吟は大きく飛び、猱は明解、独特な沸声の弾きかた)、その忠実さがはりつめた尖端のところで弾ずるという、古琴に固有な緊張感を生み、聴いていてスリリング
五音派(do re mi so la do re 中国の伝統 主流)
七音派(do re mi fa so la si do 地域独特な要素) 外調 典型的には離騒の楚調 調弦は低い方から順にre fa so la do re mi fa と miがぶつかり不協和音が頻出する
管平湖の離騒の古典的な打譜 原譜「散二」(開放弦第2弦)faの指定を、「散三」soになおし意識的に不協和音を避けている 管平湖の時代には、清、民国の伝統が遺っていたため?
李鳳雲(天津音楽学院) 頤真(琴蕭 王建欣) 流暢な旋律を浮きぼり 歌謡性を強調して、結尾はあっさりと終える
指法 左手 右手
旋法 五音 七音
旋律
構造
内心
龔Gong一(上海今虞琴社) 離騒 オーソドックスな打譜 6年前の成都の大会の時にも演奏 さらにみがきをかける
晩上 虞山琴社音楽会
社長の翁痩蒼(虞山琴社)老の《平沙落雁》は満場の拍手
8月21日(火) 第2日目
丁承雲(武漢音楽学院) 修禊吟 流觴(《酒狂》を4拍に打譜したもの)を合体し演奏 成否は問われるにしても実験的な試み
戴樹紅(上海今虞琴社) 離騒 今回の打譜会で最長の演奏時間20分
謝俊仁(香港徳音琴社) 山中思友人、隠徳《神竒秘譜》 絹弦を使用
楊春薇(香港中文大学) 遁世操 烏絲欄指法を参考 堅実な打譜
李禹賢(福建古琴会) 修禊吟 春怨 絶えまない吟猱
唐建垣(香港唐氏琴曲芸苑) 秋宵歩月《西麓堂琴統》
午後の琴学研討会は、テレビ局の取材が入ったためほとんど聞けず これは後に《恰恰七弦 譜新声》(常熟市人民広報電視台、中央電視台3)の30分番組として報道された
晩上 雅集 若手を交え各人7分間づつの弾奏 せわしない感じがし、印象に残りがたい
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中国古琴行 2001.9.1写