毎日、写生を始める前、山道を上ってきた息を整えるのと気分を変え落ち着かせるためもあり、2,30分ほど埍[土貝](けん)を吹く これは去年の美術史の旅行の際、西安の碑林博物館前で3元(約45円)で買ったもの 音は近くの世界最大の木霊(こだま)の岩という“回音壁”に木霊する
今日は比較的小虫が少ない 秦老は午後に来る
オレンジ色の鳥の鳴き声 遠くの爆音(雷鳴か) 木を切る音 薪の燃え爆(は)ぜる音 風のざわめき 枯葉の落ちる音 木の実の落ちる音
夕方、宿舎に帰ると停電 早めに寝る
9月26日(水) 曇 峰廻路転写生5日目─蝋燭の明かり、深い闇
秦老来たる 午、雑炊をいただく
夕方、宿舎に帰ると依然として停電 蝋燭(ろうそく)が配られる
部屋のあちらとこちらに離して蝋燭を2本つけたけれど、暗い これでは絵は描けない つい最近、今世紀初めまで夜はこんな暮らしだった 今でもこんな暮らしの地域も少なくないだろう
ヨーロッパにはラトゥールやカラバッジョのように夜の光をあつかった画家がおりおりにいる
ポンペイの夜景の壁画、ラファエロの「ペテロの解放」、エルグレコ、17世紀のアダム・エルスハイマー、レンブラント、「夜のゲラルド」ホントホルスト、ゴヤ、フリードリヒ、ホイッスラーのノクターンシリーズ……
中国にも月光をあつかった水墨画や明の沈周の夜坐図のように夜の思索を主題にした画もある
そうした直接に夜を主題にしたものでなくとも、一般に夜はどうしていたのだろう
蝋燭2本を近づけて灯すと少し明るくなった 昔の人は、こんな感じで3本、4本と灯して夜の仕事をしたのだろうか それとも太陽のある日中だけの活動、夜は闇の中、思索を深める時間だったのか
古人はどうしていたのだろう
こんどの写生は、宋人、范寛や荊浩の潜みに少しでも倣えればよい
さらにこの峰廻路転の写生では西洋のルネッサンス、特にレオナルド・ダ・ヴィンチのイメージが頭の中を巡る ダ・ヴィンチには遠く及ばないにしても、ダ・ヴィンチの想ったこと、何らかの神秘感、宗教感に近づければよいが
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9月16日(日) 出発 水墨画の写生ための用具
17日(月) 嶂石巌散策─蛇岩など
18日(火) 塔の岩の写生 王一明
19日(水) 水墨技法─積墨法のし方
20日(木) 《淮泉寺記》
21日(金) 嶂石巌散策─大王台
22日(土) 峰廻路転写生1日目─秦お爺さんと黒
23日(日) 峰廻路転写生2日目─小虫が大発生
24日(月) 峰廻路転写生3日目─嶂石巌路起伏多
25日(火) 峰廻路転写生4日目─嶂石巌の音
26日(水) 峰廻路転写生5日目─蝋燭の明かり、深い闇
27日(木) NEXT→6日目─客人
28日(金) 峰廻路転写生7日目─写生結束
29日(土) 懸崖の箱庭─凍凌背
30日(日) 帰路