花鳥画とは何か
1.絵画の3つの主要なジャンル
中国 | 西洋近代 | ||
唐から発達 | 山水 mindscape |
17Cオランダで ジャンルとして確立 |
風景 landscape |
花鳥 mobile life, nature vivre | 静物 still life, nature morte | ||
人物 宗教絵画(仏教道教)として先行して発展 | 人物 宗教絵画(キリスト教)として先行して発展 |
2.花鳥画の意義 絵画の実験の場(装飾性と写実性) もの(自然)と人とが直接に関係
参考書
A.モチーフ 動物(畜獣) →花鳥(→明清の花卉雑画)
B.構成 全枝(唐五代北宋) →折枝(北宋趙昌→南宋院体画)
C.技法 鈎勒填彩(黄氏体)←→没骨(徐氏体)
D.線 均一(唐) →モチーフにより使い分け(五代北宋)
(線の太細:岩>幹>枝>葉>花)
……現代花鳥画に至るまでさまざまな実験と工夫が行われている
3.花鳥画の独特な視線 自然と人間との関係を表象
モチーフ(自然)への親密で客観的な視線(西洋は客観、日本は親密さが)
中国:まるで望遠カメラか双眼鏡で視ているような作意のない視線
北宋花鳥画の革新
唐 装飾的
五代 蜀 黄筌、黄居寀 黄氏体←→南唐 徐煕、徐崇嗣 徐氏体
北宋前期 黄氏体が画院の主流に(徐氏は遅れて北宋画院に入る)
後期 崔白 「画格の変」 写実主義の革新
末期 徽宗の画院 クリスタルの線のような整理された明解さ 平面化
南宋 院体花鳥画 小画面(画冊、団扇)折枝 江南の自然の親密さ
崔白
[生涯]
字子西 濠梁(安徽省鳳陽県)人
神宗朝の新法の改革時の障壁画を、山水画家郭煕と共に担当
煕寧年間1068-77 画院芸学に推されたが辞退し、御前祇応(ごぜんしおう)に
[作品]
画格の変(『宣和画譜』)
素の絹に臨んで木炭を用いず(いきなり描いていった)
(凡臨素多不用杇,復能不假直尺界筆,為長絃挺刃 『図画見聞誌』)
《双喜図》軸 絹本墨画淡彩 194×103cm 台北故宮博物院
嘉祐辛丑(1061)年崔白画 全体と細密描写の調和した北宋花鳥画の基準作
[同時代の参考作品]
伝 黄居寀(こうきょさい)《山鷓棘雀図》 97×53.6cm 台北故宮博物院
黄居寀は黄筌の次子 北宋初の古風な全景構図を伝える
伝 易元吉《枇杷猿戯図》 165×108cm 台北故宮博物院
伝 蘇漢臣《秋庭嬰戯図》 198×109cm 台北故宮博物院 子供を描いた傑作
文人画の芽生え
文人画とは何か
士大夫(官僚であり文人)の描く画(素人画)←→宮廷画家(職業画家)の絵
名称の変遷:漢-宋「士大夫画」→元「利家」→明末「文人画」
1.北宋末絵画の転回:頂点に達した北宋水墨画のダイナミックな転回の一つ
2.中国の階層意識を背景:
王侯貴族士大夫層:「身分が高=人品が上=画も優雅」←→
職人:「身分低=人品下=画は俗」(現代の学歴意識に通ずる)
3.文人画論の基礎:
蘇軾 「形似」に対する「写意」(西洋の抽象表現主義に相当)
米芾 「平淡天真」 董源など江南画の再評価
李公麟の尚古主義
4.技法の逸脱:墨戯(筆墨の粗放さ←→素朴さ ナイーブ派) 絹より紙
5.文人画の主題:
山水(王詵、米芾、米友仁ら)、人物(李公麟の白画)、
墨竹、墨梅、墨蘭(明以降墨菊を入れ四君子へ)など
イメージの発する中核で音楽(特に琴曲)や文学など他分野の主題と底通
6.5から派生する詩書画一体への志向 清代には詩書画篆刻一体
北宋末から南宋にかけての文人画の動向
→逸格水墨画の系譜も参照
[北宋]
文同1018-79の墨竹 →下段「文同」の項参照
墨戯という意識「凡そ翰墨の間、物に託し興を寓すれば、則ち水墨の戯れにあらわれる」、しかし伝承作は宋人の高度な技術
蘇軾1036-1101の墨竹 →下段「蘇軾」の項参照
「胸中の逸気」の表現、写意形似論として文人画論を展開、元時代以降の文人画の展開の先駆
李公麟1049-1106の写実と理想化の調和した白画 →下段「李公麟」の項参照
張激 白蓮社図 34.9×848.8 1109跋 遼寧省博物館 李公麟白画の面目
喬仲常 北宋末李公麟の弟子 赤壁図巻1123跋 蘇軾赤壁賦を白画渇筆で描く
米芾1051-1107 雲山図の墨戯 米点山水 参考:珊瑚帖の絵 北京故宮博物院
紙筋子(紙の繊維)蔗滓(甘蔗のしぼりかす)蓮房(蓮の実を包む外皮)を用い
礬水(どうさ)をひかない生紙(にじみやすい)に描く
[南宋]
米友仁1072?-1151? 米芾の子 墨戯、戯筆、戯作 雲山図 →参照:雲の画家
揚補之(无咎)1097-1169の墨梅 北宋末禅僧 花光仲仁の墨梅を展開
四梅花図卷 紙本墨画 37.2×358.8cm 北京故宮博物院
智融1114-93の禅僧墨戯 魍魎画(淡墨の人物画) 惜墨法
伝胡直夫 ◎布袋図 偃谿広聞賛 紙本墨画 徳川美術館 魍魎画の例
直翁 ●六祖挟担図 偃谿広聞賛 紙本墨画 大東急記念文庫 魍魎画の典型
陳容(号所翁、福建人)の墨龍 溌墨、吹墨 →下段「陳容」の項参照
牧谿13Cの禅僧墨戯 →参照:牧谿と禅宗絵画
趙孟堅1199-1295?の墨蘭、墨梅、水仙
墨蘭図卷 紙本墨淡 34.5×90.2cm 北京故宮博物院
水仙図巻 紙本墨画 33.2×372.2 cm メトロポリタン美術館
文同 1018-1079
[生涯]
四川省梓潼人。字与可、元豊年間湖州の知事になったので文湖州とも呼ばれる
同じ四川出身の蘇軾と親しく影響しあう
[作品]
文同の四絶:詩一、楚詞二、草書三、画四
→特に「胸有成竹」の墨竹が湖州竹派として金、元に多きな影響
詩文に『丹淵集』『文与可詩集』がある
[伝承絵画作品]
“懸崖の竹”という主題の同構図の3つの墨竹の大作
伝 文同《墨竹図》軸 絹本墨画 132×105cm 台北故宮博物院
伝 文同《墨竹図》軸 絹本墨画 142×129 広州芸術博物院 台北本のコピー
伝 文同《墨竹図》軸 絹本墨画 中国国家博物館 コピー
蘇軾 1036-1101
[生涯]
四川省眉山人。字子瞻(しせん),号東坡。父洵、弟轍と共に〈三蘇〉かつ唐宋八大家
1057年進士。地方官を歴任中湖州知事時代,1079年筆禍で投獄,黄州左遷
哲宗1076-1100時1085年に中央復帰,翰林学士などから礼部尚書に昇進
1094年新法党復活により広東省英州さらに1097年海南島に流刑,配所からの帰途,常州で病死
[作品]
琴:蘇軾詞・廬山道士崔閑合作琴歌《醉翁吟》が伝世 琴論『雑書琴事』十三則
詩詞:豪放派 韓愈,欧陽修を継ぎ古文を発展『東坡七集』として集成 詩文に『丹淵集』『文与可詩集』
書法:1082年47歳行書《黄州寒食詩巻》 34.2×199.5cm 台北故宮博物院
「書の中の書」 「我書意造本無法,點畫信手煩推求。」「天真爛漫是吾師。」
絵画:文人画としての墨竹 「枯木枝幹虬屈無端倪,石皴硬,亦怪怪奇奇」米芾『画史』
[伝承絵画作品]
《古木怪石図》 紙本墨画 26.3×50cm 米芾題詩
〔来歴〕北宋末:潤州棲雲馮道師→米芾詩書、劉良佐次韻跋→南宋:王厚之1131-1204復斎→元:楊遵1320頃生、俞希魯1279-1368適量斎→明:黔寧王沐璘1429-1458廷章→李廷相1481-1544双桧堂、郭淐1563-1622→清:個人蔵家→近代:山東省済寧個人…北京古玩店方雨楼→北洋軍閥呉佩孚秘書・白堅夫→阿部房次郎1868-1937…関西個人→2018 Christie's香港
《瀟湘竹石図》 絹本墨画 28×105.6cm 中国美術館 対角線構図 南宋?
画中湘中楊元祥題,巻尾26題跋:元1334惠宗、葉G、銭復等から明1561跋
近代:北京古玩店→呉佩孚秘書・白堅夫→1961ケ拓1912-1966→中国美術館
《古木叢篠怪石図》 紙本墨画 上海博物館 傷み
1301鮮于枢跋《蘇軾・文同画竹図合巻》、現在は《六君子図巻》蘇軾、文同、柯九思(臨文同)、王右彦貞、銭載、羅聘の墨竹として合巻されている
李公麟 1049-1106
[生涯]
舒城(安徽省)の人。字伯時、号龍眠居士。熙寧三年(1070)の進士。官は朝奉郎(正七品)に至った。元符三年(1100)龍眠山に退隠。家は収蔵に富み古器物や古代の奇字に精通し『考古図』5巻を著した
[作品]
写実と理想化の調和した白画(白描画) 初め唐の呉道子を学び六朝の顧ト之、陸探微に遡りこれを超えるといわれた。白画を復古。立意を重んじ、構成にも意を注いだ。人物、馬、山水、古器物を得意とし、晩年仏教に傾倒した
1088年頃《五馬図巻》 紙本墨画淡彩 27.8×256.5cm 東京国立博物館
紙は澄心堂紙か(項元汴、呉升)幅44cm前後の6紙をつなぐ
淡彩部分は岱赭系の赤から赤褐、黄褐色の濃淡の塗り分け
鳳頭驄など立体感ある写実の深さはダビンチに匹敵
各馬描写の変化は対象の描き分けか描いた時期の違いか
〔来歴〕北宋:1090張仲謨蔵、黄庭堅題→南宋:1131劉延仲蔵、曾紆題→内府「紹興」印…(元明:王芝、柯九思、張霆発…汪砢玉、項元汴)…清:毘陵莊氏、宋犖審定→1753以前乾隆内府→民国:1922溥儀が溥傑に下賜し宮外に→1930頃末延道成蔵(陳宝琛甥・劉驤堯の仲介7万円)末延家→2018東京国立博物館
〔五馬の順序〕
現状:鳳頭驄、錦膊驥、好頭赤、照夜白、満川花(模本、題箋なし、青墨色)
(戦前複製の錯簡:錦膊驥、照夜白、鳳頭驄、満川花、好頭赤 跋)
元時代周密が見た順:鳳頭驄、錦膊驥、好頭赤、満川花(題箋あり)、照夜白
[伝承絵画作品]
《考経図巻》 絹本墨画淡彩 21.9×475.6cm メトロポリタン美術館
《淵明帰隠(陶淵明帰去来)図巻》 絹本墨画淡彩 37×521.5cm フリア美術館
北宋李彭1110年跋 画は元コピー? 陶淵明像と詩の絵画化早期の現存例
陳容 一説に1189-1268
[生涯]
福建省長楽の人。字公儲、号所翁、一説に所斎。端平2年(1235)進士、国子鑑主簿、莆田太守、賈似道の幕中に入ったこともある。水墨の龍を得意とし宝祐年間(1253-58)に名を馳せた
[作品]
書法:
1238年嘉熙二年《行草書自書詩》 紙本墨書 31.1×382.8cm 北京故宮博物院
1244年淳祐四年《行書詩題六逸図巻》 北京故宮博物院
画:
龍、松竹、虎の文人墨戯、陳容の確実な作品はない 日本水墨画龍の原型
元人湯垕の評:「深得変化之意,溌墨成雲,噀水成霧,醉余大叫,脱巾濡墨,信手塗抹,然后以筆成之。」
1244年《九龍図巻》 紙本墨画 46.3×1096.4cm 1917山中商会→BOSTON美術館
清朝内府旧蔵長巻“十三龍図巻”(仮題、13以上の可能性)の三つの断巻:
1.《雲行雨施図巻》紙本墨画 44.8×190.8cm 2龍 メトロポリタン美術館
2.《雲龍図巻》 紙本墨画 44.8×254.8cm 4龍 BOSTON美術館
3.《五龍図巻》 紙本墨画 45.2×299.5cm 東京国立博物館
天機造化入神妙筆,軒昂頭角奔迅爪麟。
電從霧瀚巧於經綸,精得之味臻極絕倫。
乘時變化活脫其真,神氣逈出通靈駭人。
咦!設遇天陰休展軸,恐乘風雨上高旻。「和卿」印
4.《龍飛雲霧図巻》 紙本墨画 37.5×814cm プリンストン大学美術館
“十三龍図巻”の上記123連続したコピー(冒頭新2龍、2BOSTON本の1龍欠く)
《十三龍図巻》復元:123に4も加味したもの 約45×920cm
《六龍図巻》 紙本墨画 34.3×440.4cm 清朝内府→藤田美術館旧蔵
2017年クリスティーズ出品、約50億円にて落札される
《龍図巻》 絹本墨画 44.8×294.4cm 酒井家旧蔵 文化庁 九龍図巻に似る
《五龍図》 紙本墨画 34.3×59.6cm ネルソン美術館 王世襄跋
《墨龍図巻》 絹本墨画 34.3×50cm 北京故宮博物院
《双珠龍図巻》 紙本墨画 32.5×237.5cm 中国個人藏
《三陽啓泰図巻》 紙本墨画 23.1cm- 日本個人藏
軸装:
《雲龍図》 絹本墨画 187.0×111.8cm 徳川美術館
《雲龍図》 絹本墨画 205.3×131cm 広東省博物館
《雲龍図》 絹本墨画 112.5×48.5cm 中国美術館
《雲龍図》 絹本墨画 138.2×80.2cm 日本松井文庫
《墨龍図》 絹本墨画 185.8×106.1cm 日本個人藏
《双龍戯海図》 絹本墨画 135.2×84cm セントルイス美術館
《霖雨図》 絹本墨画 173.9×94cm 台北故宮博物院
《神龍沛雨図》 絹本墨画 210.5×114.6cm 台北故宮博物院
宮崎法子 花鳥・山水画を読み解く 中国絵画の意味 角川選書 2003年
ジュディ・オング ジュディの中国絵画っておもしろい 二玄社 2000年
世界大美術全集 東洋編5 五代・北宋・遼・西夏 小学館 1998年
鈴木敬 中国絵画史 上 吉川弘文館 1981年-
郭若虚『図画見聞志』 張彦遠『歴代名画記』の後を継ぐ中国絵画の正史
『宣和画譜』 北宋末徽宗朝の宮廷コレクションのリスト
青木正児 青木正児全集6 歴代画論 春秋社 1969年 郭煕『林泉高致』訳など
古典に学ぶ水墨画 全4巻(墨蘭・墨竹・墨梅・墨菊)江兆申監修 二玄社 1997年
文同、趙孟堅、雪窓、文徴明、徐渭、呉昌碩など、中国を代表する文人画家たちの四君子作品の精しい技法解析
台北故宮博物院等 中国書画複製 二玄社 -1999年
参考サイト
台北故宮博物院(Big5,GB,Japanese,English)
大觀 北宋書畫 (960-1127)
北京故宮博物院 蔵品検索 数以百万計的珍貴蔵品鑑賞(GB)
シカゴ大学東アジア芸術センター 東アジアの画巻
中国・韓国・日本の画巻(絵巻)高精細画像プロジェクト