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 中国絵画史ノート 宋時代 牧谿と逸格水墨画

逸品(逸格)とは 絵画の評価基準
南斉 謝赫 『古画品録序』 品第   第1品-第6品
唐  李嗣真『書後品』   品書家 
   張懐瓗『書断』    三品   神品 妙品 能品
晩唐 朱景玄『唐朝名画録』 四品  ┌神品 妙品 能品
                  └
五代 黄休復『益州名画録』 四格   格 神格 妙格 能格
元  夏文彦『図絵宝鑑』  三品   神品 妙品 能品

逸品画風について(島田修二郎『美術研究』161号1951年
1.粗筆による水墨技法(毛筆にこだわらない) 輪郭にこだわらない 
2.簡略な描写
3.形似にとらわれない
4.特異な風格、模倣しにくい
5.墨戯 酔作 パフォーマンスをする場合もある

逸格水墨画の系譜
中唐8C後半:江南の溌墨画 山水 →逸品(朱景玄『唐朝名画録』)
五代:蜀 逸格水墨人物画家 →狂逸 孫位(黄休復『益州名画録』北宋初)
 ◎伝 石恪《二祖調心図》 東京国立博物館 模本
 ◎伝 禅月大師貫休《羅漢図》 根津美術館 南宋末(鄧椿『画継』南宋初)
 人物画にも水墨技法が取り入れられる
 ┌粗筆人物画“顔面細筆、衣紋粗筆” 粗い水墨の新画法←呉道子の白描画
 └彩色大画面の道釈人物画 “九朽一罷(きゅうきゅういっぴ)丁寧な伝統画法
北宋末: →北宋末から南宋にかけての文人画の動向も参照
李公麟の白描人物画 水墨小画面の鑑賞人物画 紙  ←六朝 顧愷之の白描画
 〇《五馬図巻》 末延三次→東京国立博物館
南宋:
前期12C後 禅余画家 智融の“罔両画” 極端な淡墨 目鼻口に濃墨
 ●直翁《六祖挟担図》 大東急記念文庫 霊隠寺偃谿広聞1189-1263賛
中期13C初 画院画家 梁楷 “減筆体” 禅僧との交友+画院のテクニック
末期13C後 牧谿、玉澗をはじめ禅林圏での流行 
温日観(-1293-97 杭州瑪瑙寺僧 宋の遺民)の墨葡萄 枝葉は草書の筆致
 ◎1291年《葡萄図》 97.8×42.1cm 井上家旧蔵 サンリツ服部美術館
 伝 日観1290年《葡萄図》双幅 各120.1×51.1cm 長楽寺(県歴博寄託)
 伝 日観1289年《葡萄図巻》 27×188.5cm  2015中鴻信1150万元
  1293陸霆龍 1298楊載 仇遠 程登 陳継儒跋
元:
元末四大家のうち倪瓚 蕭散体のスタイルが逸
方従義 元末、龍虎山(江西省)の道士 米法山水 粗放な筆墨
明:
陳献章1428-1500 新会(広東省)の思想家、書家 “茅筆字
徐渭 紹興(浙江省)の文人 狂逸な生涯 花卉雑画 粗放な筆墨
清:
八大山人 南昌(江西省)の明の王族 禅僧に韜晦の生涯 

牧谿法常
[生涯]
宋末元初の禅僧画家 蜀(四川省) 人 無準師範(仏鑑禅師1177-1249)の弟子
元の蜀侵入により南下か 杭州を中心とした禅余画家として活躍
西湖六通寺の開山
南宋末1267年以降?宰相賈似道の怒りにふれ越 (浙江省) の丘氏に逃れた
至元年間1264-94没(呉太素『松斎梅譜』元末)
[作品]
道釈人物、龍虎猿鶴、山水、樹石、花卉雑画など 江南の溌墨を取り入れ描く
“不曾設色,多用蔗滓艸結”(甘蔗のしぼりかすや藁筆)
空気と光に対する感受性
中国文人批評家からの毀誉褒貶「粗悪」「古法無し」、一部文人の理解者
1.人物画(一部花鳥画、龍虎図
中期:
◎《蜆子和尚図》 日野原家 偃谿広聞の霊隠寺住持時1254-56の賛
 《松に叭叭鳥図》 摂津家
◎1269年咸淳己巳《龍虎図》対幅 絹本 大徳寺 龍興而到雲 虎嘯而風烈
       ◎《龍虎図》対幅 絹本 大徳寺 模本
◎《羅漢図》 絹本 静嘉堂文庫美術館 義満「天山」印
晩年:
●《観音図》三幅対 絹本172.2×97.6cm 大徳寺 仏毋の主題
 鶴図の粗い竹は南宋末禅宗圏の墨竹の例
 猿図と◎長谷川等伯《古木猿猴図》16C龍泉庵の比較 日本人が理解した牧谿
2.花卉雑画、花鳥画 明沈周、呉派文人画の花卉画へ
◎《芙蓉図》 総見院 花卉巻(下記台北本のような)の断簡 左葉は補筆
◎《柿図栗図》対幅 室町将軍家…天王寺屋津田家 龍光院 元の模本断簡?
《蘿蔔蕪菁図》対幅 三の丸尚蔵館 佚名題:即庵日飫 客来一味
 応永1394-1428頃明王→足利義満…堺商人…水戸徳川-高松松平…1887井上家
1265年《写生巻》44.5×1017.1cm 台北故宮博物院 模本 高精細画像
  「咸淳改元牧溪。」款 呉ェ印…項元汴、僧圓信、1693年查士標跋
 牡丹 蓮荷 芙蓉 茶花 石榴2 梨5 枇杷 柿11 菁3 蔬菜 筍2 藕荷葉 蓮蓬 菱角 (2種不明) 小黄瓜 瓜 絲瓜 葱 南瓜 蘿蔔 人参 叭叭鳥 竹 雀11 樹木 鳩 雉
《写生蔬果図巻》47×814cm 北京故宮博物院 明の模本 呉ェ旧蔵 沈周跋
 石榴3 橘子5 梨3 枇杷16 燕 叭叭鳥 鶺鴒 鳩 荷葉 蟹 海老 蘆 蓮花 水草 魚 人参 菁2 茄子3 (不明) 筍2 (2種不明2)
◎《柳燕図》 徳川綱吉→尾張家2代徳川光友 徳川美術館 元の模本?
◎《竹雀図「ぬれ雀」》 根津美術館 元の模本
《叭々鳥図》三幅対 各53×30p 「牧谿」印、足利義満「天山」印 元の模本
  東山御物…1.若狭家…出光美術館 
       2.3.織田信長本能寺什物二幅… MOA美術館 五島美術館
3.山水画
●◎《瀟湘八景図巻》 大軸、小軸断簡 →瀟湘八景について参照
[影響]
元代 蘿窓など一部追随画家 明代以降 花卉雑画巻の流行のルーツ
日本人の心の琴線にふれ深く愛し影響を受けた画家
たくさんの伝牧谿作が日本に伝世(多く周辺作や室町江戸の模本や偽作)
日本水墨画壇、長谷川等伯、俵屋宗達らへ多大な影響 〈和尚〉と愛称



参考書
世界美術大全集 東洋編6 南宋・金 嶋田英誠等編 小学館 2000年
牧谿─憧憬の水墨画 五島美術館 1996年 牧谿展カタログ
鈴木敬 中国絵画史 中之一 吉川弘文館 1984年
島田修二郎 中国絵画史研究 中央公論美術出版社 1993年 島田修二郎著作集
 島田修二郎1951年「逸品画風について」 1987年「日観と墨葡萄
基本史料
宋 鄧椿 画継 煕寧七年(1074)から乾道三年(1167)までの画史
 歴代名画記図画見聞誌に続く中国絵画の基本史料 元 荘粛に画継補遺
元 湯垕 画鑑 1330頃 米芾の影響の強い絵画批評
元 夏文彦 図絵宝鑑 1365序 至元二年(1336)までの1500余人の画家の略伝
元末呉太素/島田修二郎校註 松斎梅譜 広島市立図書館編 1988年
能阿弥、相阿弥 君台観左右張記 室町 国会図書館蔵明治有鄰堂本
 1.晋元の中国画家 2.書院座敷飾 3.唐物鑑識、配置法
参考サイト
同様 宋·法常(牧溪) 高精細画像投稿サイト
おすすめ展示会
大徳寺曝涼
毎年10月第2日曜頃、本坊にて牧谿「観音」三幅対、陸信忠「十王図」、林庭珪・周季常「五百羅漢図」などを含む寺宝約100点を公開
高桐院では李唐「山水図」対幅を公開
五島美術館「牧谿−憧憬の水墨画」展
1996年10月26日〜11月24日(終了)
日本に現存する牧谿の新出作品・模本を含めた初の大規模な展示。図録も伝来作品図版一覧や資料編など充実。







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 宋時代 牧谿と逸格水墨画  2002.10.10作成 

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