査阜成(1895〜1976) 『琴学文萃』より
古琴は中国で最も早い弾弦楽器の一つです。そもそもの名は、ただ「琴」でした。後に「胡琴」や「洋琴」など、琴の字の頭に別の名をつけた弦楽器と区別するために、200年以上前には「七弦琴」と呼ばれるようになり、20世紀後半からは「古琴」と呼ばれています。
古琴の歴史
2000年前、漢時代の人は古い史料を基にして、琴は伏羲(神話時代の神)が作ったと説きました。あるいは神農が作ったとも。今残る比較的信頼できる『尚書』『詩経』などは、この種の楽器が、春秋時代の前からあったことにふれています。すくなくとも琴は3000年以上の歴史があるのです。2500年前の春秋戦国時代の書は、師曠や師襄、伯牙などの琴家の演奏が、いろいろな動物をうっとりさせたといいます。これ以降、詩や小説、劇などで、琴は最も感情表現に富んだ楽器とされてきました。《高山》《流水》《白雪》《陽春》などの当時の名曲が、琴専用の琴譜によって長い間の改編を経ながら今に伝えられています。古琴は、中国人が古くから愛好した音楽遺産であることがわかります。
古琴の結構
琴の構造は、漢時代の末にはすでに定型化しています。これ以前の琴は、やや寛く、長方形で、弦も7弦とは限りません。「徽」(き)もありません。それが次第に前が寛く後が狭い、底が平たい七弦琴になっていきました。漢時代の末から一般の琴は、長さ3尺6寸、幅6寸、厚さ2寸の桐の板を用意し、一定の規格でカーブをつけ削ります。これを「槽腹」(そうふく)(造琴の発展は主に槽腹の変化にあります)といいます。厚さ3分の梓木の底板を合わせ、共鳴箱を作ります。硬木で頭部の「岳山」(がくざん)(「軫地」(しんち)をふくむ)、尾部の「龍齦」(りゅうぎん)(「焦尾」(しょうび)をふくむ)、底面の「雁足」(がんそく)を嵌め込み、全面に漆をぬります。最後に13個の螺鈿で「琴徽」(きんき)を作ります。これが伝統的な古琴です。
琴弦の張り方
2尺の絹糸を左に向って縒り、1尺ほどの双股の「絨扣」(じゅうこう)を7条つくり、それを一つ一つ軫の底の孔に入れます。軫の孔から引出し頚を一周させ、再び頚の孔に入れ、軫の頭の孔から出し、それを岳山の後ろの7個の弦眼に、底から入れ表に出しておきます。
古琴の弦のセットを求め、1条ごと弦の頭に決まったやり方で蠅頭(図)を作り、弦の尾から絨扣をくぐらせます。絨扣を調整し、7つの蠅頭を岳山の右にそろえ、絨扣を締めます。そうして弦をはっていきます。
絨扣を軫に通す仕方:
1.軫の頚の孔から出し、2.左に向って頚を一周し、3.右の絨扣が左の絨扣の下を潜るように頚の孔に入れ、軫の頭の孔から出し引き締めます。
後で弦を張り直す時のために、弦を決まった順序で張っていきます。まず5弦、6弦、7弦を張っていき、残りの4条の弦は底面のもう一方の雁足にまとめておきます。次に1弦、2弦、3弦を張ります。
比較的張りやすい方法:
椅子にしっかり座り、琴を立て、琴面を左に底面を右に、膝の間に挟みます。弦の蠅頭が端正に絨扣におさまっているかを確かめ、弦を龍齦にまわし引き締めます。弦の音高が求める高さ(まず5弦を張る時、音叉のAよりオクターブ低くします。後は5度正調のミで高さをとっていきます)になったら、雁足に捲き固定していきます(結ぶ必要はなく、弛みにくいよう、弦の尾を底板と捲いた弦の間に挟み締めます)。7条の弦をみな張り終わって演奏の準備が整います。
古琴と弦のもとめ方
唐時代以前(8世紀前)は琴人は一般に自分で造った琴をつかっていました。以降、造琴の専門家があらわれ、商品としての琴もでてきました。解放前百年あまりは楽器店では古琴を作っていませんでしたが、1957年より蘇州楽器厰が新制の古琴を作り売りはじめました。この他、文物商店などでは古い古琴を扱うようになりました。
古琴の7条の弦は、絹ででき太さがみな違っています:
7弦が最も細く、1弦が最も太くなっています。1、2、3、4弦には二重に絹を播いてあります。古琴の弦の製法は、過去1400年あまりの文献に絶えず書きとめられています。科学によってはいませんが、製法はかなり厳格で合理的です。
宋時代以前(12世紀以前)琴人は一般に自分で造った琴弦をつかっていました。明時代には商品としての弦があらわれました。30年前、すでに蘇州・杭州の絹織物の作坊では専門の弦工を育てなくなっており、大戦中には完全に途絶えましたが、現在、蘇州民族楽器厰では古琴の弦のセットの製造をはじめ、買えるようになっています。
これは政府の支持によってできたのですが、ますますの発展を期待します。
古琴の音色
古琴の弦数は7弦と比較的多く、7つの弦の長さは一律で、宣声(音のでる弦の長さ)は弦楽中特別大きくなっています。共鳴槽はまた比較的多く、齦と岳が槽の上でなくへりにあるので、発音がよい。
伝統的には、古琴の音色は9徳があるのがよい、とされます。
第1:奇(qi2) 泛音(ハーモニックス)が軽快(軽qing1)、散音(開放弦の音)が透徹(松song1)、按音(弦を押さえてだす音)が清脆(脆cui4)、走音(弦を押さえ滑らしてだす音)が平滑(滑hua2)
第2:古(gu3) 「淳淡の中に金石の韵がある」「清濁適中」いいかえれば鋭すぎず、鈍すぎず。
第3:透(tou4) これは琴材を膠汁で張合わせ琴をつくった後、琴自体の膠と表面に塗った膠と漆が全て乾いて透きとおり、膠漆の雑音がなく、純粋な音色のことをいいます。古琴家が数百年以上も昔の琴を求める理由です。(古代の「透」の原文は「歳籥錦遠、膠漆干匱、発越響亮而不咽塞」)
第4:静(jing4) これは琴面上(演奏中に指がふれる全ての部分)の左右前後の弧度がなめらかで、擦音が少しもでないことをいいます。
第5:潤(run4) 発音に潤いがあり、余韻が長く続き、清遠なこと愛すべきことをいいます。
第6:円(yuan2) 声韻が渾然として一体なことをいいます。
第7:清(qing1) 発音が明瞭で少しの雑音もないことをいいます。(原文は「謂発声猶風中鐸」)
第8:匀(yun2) 7つの弦の散音(開放弦の音)と13の徽をめやすにした按音と泛音(ハーモニックス)の音色がすべて統一されていることをいいます。
第9:芳(fang1) 大曲を演奏する時、始めから終わりまで音量と音色が統一されていることをいいます。(原文は「愈弾而声愈出、無弾久声乏之病)
ただし9徳を全て備える琴は少なく、一般には静・透・円・潤・清・匀があれば好い琴といえます。
古琴の3種類の伝統的な演奏形式
古琴には漢時代以来、3種類の伝統的な演奏形式があります。つまり、独奏と琴簫合奏と琴歌(曲芸の伴奏に似る)です。古琴はこの各方面に独特な性能と特徴をもっています。ここ300年、大多数の琴家は独奏に集中し、琴歌と合奏はほとんど絶えていました。しかし開放以降、古琴と他の楽器の合奏は復活し、琴歌も復興しつつあります。
古琴の13の徽
すでに古琴の13の螺鈿の徽について少しふれました。これは古琴の各弦の音の位置を表します。7つの弦の長さは等しいので、13の徽は各弦共有できます。この13徽は岳山から数え、1徽・2徽・3徽 13徽とよびます。簡単にいえば、13徽は各弦の8度・5度・4度・3度の泛音の位置を指します。岳山から数え以下のようになります。
龍齦 | 13徽 | 12徽 | 11徽 | 10徽 | 9徽 | 8徽 | 7徽 | 6徽 | 5徽 | 4徽 | 3徽 | 2徽 | 1徽 | 岳山 |
1/2 | ||||||||||||||
4/5 | 3/5 | 2/5 | 1/5 | |||||||||||
5/6 | 4/6 | 2/6 | 1/6 | |||||||||||
7/8 | 6/8 | 2/8 | 1/8 |
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古琴の結構
琴弦の張り方
古琴と弦のもとめ方
古琴の音色
古琴の3種類の伝統的な演奏形式
古琴の13の徽
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古琴の技法と琴譜
古琴の演奏常識
古琴KOTONOHA 2000.3.31訳 更新