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 古琴の常識と演奏 2




査阜成(1895〜1976) 『琴学文萃』より 


古琴の歴史
古琴の結構
琴弦の張り方
古琴と弦のもとめ方
古琴の音色
古琴の3種類の伝統的な演奏形式
古琴の13の徽(前のページ)
古琴の律と調(このページ)
古琴の音域
古琴の技法と琴譜
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古琴の律と調(音階と調弦法)
 中国の各民族の弦楽器の調弦は、一般に5度あるいは4度を聴きとった後、4度あるいは5度を調弦します。しかし漢民族の楽器である古琴の伝統的な調弦法は、このような仕方でなく、離れた弦の同度の音程をとってから、5度あるいは4度を定めます。
 古琴の7条の弦相互の音の高さの関係は固定していません。曲が異なれば、異なった「調」(調弦法)をもちました。南宋時代の末まで、民間の琴家が作曲する時、旋律や調式の特点に相応しくするため生みだした「調」は、次のような35調に及んでいます。

 正 調 楚商調 清 調 三清調 金羽調 スイ賓調 羲和調
 林鐘調 下間弦 玉清調 碧玉調 慢角調 清涼調 側羽調
 側楚調 清角調 慢商調 無媒調 舜 調 側商調 間 弦
 清宮調 清商調 離憂調 泉鳴調 側蜀調 清羽調 黄鐘宮調
 呉 調 瑟 調 応鐘調 上間弦 無射調 慢宮調 商角調

 現在の伝統琴曲の中では、正調が最も多く、慢角調・清商調・慢宮調・スイ賓調・慢商調・黄鐘宮調の6調が続き、他の調はとても少なくなります。正調が多いため、南宋時代から、はじめに正調で調弦し、他の調は正調の調弦から派生して定めるようになりました。
 正調の7弦の散声(開放弦)の相対音高は次のようになります。

正調(大部分の伝統琴曲はこの調を用います)
1弦 2弦 3弦 4弦 5弦 6弦 7弦
古代の相対音名 下徴 下羽
現代の数字譜の音高
現代の唱法 sol la do re mi sol la
最も近い絶対音高 C D F G A C D

 最後の欄の絶対音高とは、現在の北京・上海の古琴家が一般に調弦する時のものです。内地の古琴家は2度低く調弦(5弦=G)する場合があります。20年前の上海の琴家は2度高く調弦(5弦=B)する場合もありました。いいかえれば現在の各地の琴家の正調の音高は一定ではないが、5弦散声の絶対音高はGより下らず、Bより高くないといえます。古琴の7弦の長さは1.1mほどで、絹糸で作られています。最大張力に限りがあるため、5弦の高さがBを超えれば弦は切れ、Gより低ければ充分な音がでなくなります。このため北京と上海の古琴会は、5弦の絶対音高をAにしますが、これはさまざまな違いを折衷したものなのです。
 最も早い伝統的な調弦法は、「宮弦の9徽を徴(ち)に、徴弦の9徽を商に、商弦の9徽を羽に、羽弦の9徽を角に合わせ、角弦の10徽を商に、商弦の10徽を徴に、徴弦の10徽を宮に合わせます。」この調弦法は、各調に応用できます。後に弦を移し正調に改められましたが、名は異なっても実際は同じです。
 明清時代の琴譜に伝えられる調弦法は、先ず「緩すぎもせず締めすぎでもない程度に」5弦を定め、7弦を締め緩めして5弦10徽と同音(10徽は5弦の4分の3にあたり、5弦の4度音になります)にします。次に4弦を調整し4弦9徽を7弦散声と同音にします。次いで6弦を調整し4弦10徽と同音(4弦の4度)にします。次に3弦9徽を6弦散声と同音(3弦の5度)にします。2弦を調整し2弦9徽を5弦散声と同音(2弦の5度)にします。1弦を調整し1弦9徽を4弦散声と同音(1弦の5度)にします。これが正調です。数千年の間、古琴家はこのような調弦法で古琴を弾いてきており、音階を聞き分けることも音階という概念ももちませんでした。
 こうした調弦法の結果、5弦角音は3弦宮音11徽に比べ18分の1高くなり、3弦11徽のdoの音は、正に西洋純律(自然音階)のmiになっています。もし5弦の音とmiを同じにしたければ、5弦を少し緩めます。7弦を緩めれば5弦10徽と同じになり、2弦を緩めれば、7弦よりオクターブ低い音がえられます。但し古琴家は純5度と純4度の調弦法、つまり我国の三分損益律に慣れていますので、あらゆる伝統琴曲は必ずこのような純5度と純4度の関係を保持し、オクターブの音のたくさんの「応合」で出来ています。
 こうして古琴の曲と無伴奏のバイオリン独奏と同じく、十二平均律の鍵盤楽器による伴奏やユニゾンと共に古琴を演奏すると、一定の矛盾が生じ、古琴家は演奏を統一するのが難しくなります。もっともバイオリン奏者が聴くと、古琴の音階は鍵盤楽器より更に不調和ですが、これは十二平均律純律三分損益律の間を折衷しているためです。
 正調から他の調へ移る方法は、伝統的な「慢宮為角」(宮を緩め角に)「緊角為宮」(角を締め宮に)によっており、その結果残りの34調は自ずから三分損益律になっています。ここでは詳細な理論を略しますが、古琴を演奏する際の常識として、正調以外の主な6調を以下にあげます。

慢角調(晩期《風雷引》はこの調を用います)
1弦 2弦 3弦 4弦 5弦 6弦 7弦
古代の相対音名 少宮 少商
現代の数字譜の音高
現代の唱法 do re mi sol la do re
最も近い絶対音高 C D E G A C D

清商調(小碧玉調ともいいます。名曲《秋鴻》はこの調を用います)
1弦 2弦 3弦 4弦 5弦 6弦 7弦
古代の相対音名 下羽 少宮
現代の数字譜の音高
現代の唱法 la do re mi sol la do
最も近い絶対音高 C e F G b C e

慢宮調(泉鳴調ともいいます。名曲《挟仙遊》はこの調を用います)
1弦 2弦 3弦 4弦 5弦 6弦 7弦
古代の相対音名 下角 下徴 下羽
現代の数字譜の音高
現代の唱法 mi sol la do re mi sol
最も近い絶対音高 B D E G A B D

スイ賓調(金羽調ともいいます。名曲《瀟湘水雲》はこの調を用います)
1弦 2弦 3弦 4弦 5弦 6弦 7弦
古代の相対音名 下商 下角
現代の数字譜の音高
現代の唱法 re mi sol la do re mi
最も近い絶対音高 C D F G b C D

慢商調(名曲《広陵散》はこの調を用います)
1弦 2弦 3弦 4弦 5弦 6弦 7弦
古代の相対音名 下徴 下徴
現代の数字譜の音高
現代の唱法 sol sol do re mi sol la
最も近い絶対音高 C C F G A C D

黄鐘調(名曲《胡笳十八拍》はこの調を用います)
1弦 2弦 3弦 4弦 5弦 6弦 7弦
古代の相対音名 下徴 下羽
現代の数字譜の音高
現代の唱法 do mi sol la do re mi
最も近い絶対音高 b D F G b C D

 正調・慢角調・清商調・慢宮調・スイ賓調の5調が弦法上、5声音階の5つの調式であることがすぐわかります。但し慢商調・黄鐘調や他の29調のほとんどの調弦法は、異なった情感と調式をもちます。
 前者の5調が、5声音階の排列にしたがって規律性が比較的強く、全て音名・律名が調名の基になっていることは、13世紀初期南宋の琴家、徐理が律呂から考えた25調を思い起こさせます。但し徐理は、民間の作曲家が「律学家」でなく、かつ作曲家はある一定の調弦法で作曲するのであり、調名を意に介しないことを、理解しませんでした。徐理の25調の実際は、35調を前者の5調に帰していますが、百千の伝統琴曲はわずか5調で演奏することはできません。ですから35調の調名はひとえに17世紀半ばまで使われ、35調の琴曲は現在まで残っているのです。
 清時代の康煕年間(つまり17世紀半ば)、王坦は徐理の後を継ぎ、『琴旨』の中で、正調が3弦を宮音にするのを根拠に、3弦の相対音から調名を定めました。たいへん流行した呉[火工]の『自遠堂琴譜』はこうした考えを採っています。『自遠堂琴譜』では各曲の調名を変え、正調を宮調に、慢角調を角調に、清商調を商調に、慢宮調を羽調に、スイ賓調を徴調にしています。絶対音高を問わずに調の体系を均一に設定したのは、浅薄さを免れません。
 清時代の乾隆年間(18世紀半ば)、蘇[王景]は『琴説』の中で、1弦が12律中の黄鐘であることを根拠に、慢角調が黄鐘の本均であるとしました。すなわち正調は黄鐘均の角を高くすることから得、誤って3弦の角を高くした結果、3弦は仲呂であるとしました。つまり正調は仲呂均としました。同様な理由で、清商調を夾鐘均、慢宮調を夷則均、スイ賓調を無射均としました。広範に流行した『春草堂琴譜』『琴学入門』は、この種の調名の過ちを採っています。
 民国20年(1931)王賓魯は、黄鐘の反5度が仲呂であると誤り、正調が黄鐘調であるとしました。そして『梅庵琴譜』では正調を黄鐘調とし、清商調を無謝調に、慢宮調を太簇調にスイ賓調を仲呂調にしていますが、これも誤りです。
 ですから古琴の調弦法には、2つの常識が要ります。

1.あらゆる伝統琴曲は、必ず各家の調名から調弦法を知ること。
2.古から現在までの各時代の調名は、全てそのままにすること(以前つけられた一見合理的な名称も破棄すること) 


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  古琴ことのは    2000.4.10更新

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