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 中国絵画史ノート 風土と芸術の関係

中国絵画の特質については、最初に中国絵画オリエンテーションを参照
日本文化論、環境論の限界→いきなり普遍化するのではなく、より自然や生活に近い環境から「風土」というキーワードが登場

風土と芸術の関係1 風土空間論
「風土が文化を決定する」風土運命論→一面の事実
精神の営みは風土にあらがうことができる
異なる文化のダイナミックな受容、対立、融合がありえる

二人の風土論
和辻哲郎 1889-1960 1919年『古寺巡礼』を書いた後
 留学中、ハイデッガー『存在と時間』に示唆を受け書きあげる
 1931年『風土 人間学的考察』岩波書店(岩波文庫)
 風土とは「ある土地の気候、気象、地質、地味、地形、景観などの総称」
 「生の基盤」としての風土を三つに分け文化、思想との関連を考察
 1.モンスーン型(中国江南、日本など)
 2.砂漠型(アラビア、アフリカ、モンゴルなど、中国華北も)
 3.牧場型(ヨーロッパなど)
 「風土が人間に影響する」という環境決定論に傾く
オギュスタン・ベルク 1942- 『風土の日本』篠田勝英訳 筑摩書房、1988
 フランスの地理学者、日本学者 和辻の「風土」概念に触発され風土学として体系化
 「地球」「生物圏」「風土」のレベルが多層的に重なりあう構造
 「風土」の産出は、人間が世界を様々なレベルで述語化する働きの一環

感性基盤としての自然 中国の南北論
 北 大陸性乾燥気候 筆線系 主流 
 |
 南 モンスーン気候 没骨系 非主流 
 参照:Google Maps
    "chana"と打込み、サテライト画像から見える中国南北の地形の違い
    アジアの雲の衛星写真
    梅雨時の南西から北東に斜めに連なるモンスーンの湿気をはらんだ雲
没骨もっこつとは:
〔狭義〕輪郭線を用いず面で表す技法、色による没骨、水墨による没骨
〔広義〕線を否定する要素(非主流)として拡張解釈
    溌墨、かすれ、にじみ、藁筆、たらし込み、朦朧体を含む
広義の没骨の例:
〔中国〕
花鳥画の没骨の系譜:五代徐煕→南宋常州花鳥画、牧谿→明沈周、孫隆(龍)、徐渭→清ツ寿平、清末広東の居廉
山水画:六朝張僧繇、楊昇の没骨山水(董其昌)、明藍瑛の白雲紅樹図
〔日本〕
江戸俵屋宗達のたらし込み、円山応挙の片暈し・付立て、明治横山大観の朦朧体
かすれ・藁筆への好み:
 宋元禅宗絵画・墨蹟への偏愛、明時代広東の陳献章の藁筆による書
 日本水墨画、日本書道界の長年にわたるかすれ・にじみへの好み
没骨系の風土
  中国北部 中国南部
表現 構築性
思想、論理性(持続性、しつこさ、複雑さ)
非構築性
情念、情感(一過的な激しさ、細やかさ、純粋さ)
技法 筆線系(線の重視) 没骨系(溌墨、にじみ、かすれも含む)
画面形式 屏風 ふすま(可動式ユニット)
生活 土間にレンガ 高床式住居


風土と芸術の関係2 風土時間論

感性基盤としての自然 旧暦と新暦の問題
1.旧暦と新暦のずれ 新暦は約一月先行
   例:新暦の七夕はいつも星が見えない
     北京での生活 旧暦と季節の推移が鮮やかに対応
2.伝記における一年のずれ 旧暦12月頃の事項が新暦では翌年に
   例:北宋時代の文人書家、米芾の生卒年(本項末尾参照)


歴(天文術)+歴注(呪術) カレンダー(天文学)との違い
年紀記載:十干十二支 陰陽五行思想と結びつく
旧暦 太陰歴
   太陰太陽歴(太陰暦+二十四節気) 飛鳥頃より
新暦 太陽暦 日本1873年明治六年1月1日より
西洋:太陽暦ユリウス暦→1582年10月15日よりグレゴリウス歴

四季 十二月 二十四節気
春  123 立春 雨水 啓蟄 春分 清明 穀雨
夏  456 立夏 小満 芒種 夏至 小暑 大暑
秋  789 立秋 処暑 白露 秋分 寒露 霜降
冬  101112 立冬 小雪 大雪 冬至 小寒 大寒

日本人の四季に対する感性
自然との関係的存在としての日本人 「花冷え」「晩春」「入梅」「残暑」「秋の朝」など
『古今和歌集』の四季による編集:季語の意識
春:霞 梅 鴬 柳 花 桜 藤 山吹
夏:郭公
秋:七夕 月 萩 きりぎりす 虫 雁 女郎花 菊 もみぢ
冬:雪

新暦・旧暦併用 太陽暦換算の問題
暦法が時代・地域により異なる
換算に天文・地理・数学・歴史の専門知識→専門家による信頼度高い新旧対照表が必要
附:
旧暦と新暦の問題2.伝記における一年のずれ  旧暦12月頃の事項が新暦では翌年に
例:北宋時代の文人書家、米芾の生卒年
アメリカ:1052年生-1107年卒(『メトリポリタン美術館図録』など)
中国:1052年皇祐三年辛卯12月生-1107年大観元年丁亥57歳卒
「今日の辞書や著録は、米芾が皇祐三年に生まれたとするが、未だ十二月に生まれたことに注意していない。西暦に直すとこれは1052年(旧暦「辛卯十一月二十六日」は西暦1051年12月31日)にあたる。」(謝巍『中国画学著作考録』148頁 上海書画出版社 1998年)
日本:皇祐三年1051年生-大観元年1107年57歳卒
塘耕次「この年の十二月は西暦に置き換えると、実は一〇五二年の正月である。しかし西暦への換算は難しい問題もはらんでいるため(「西暦年への換算について」『中国研究集刊・荒号』大阪大学中国哲学研究室)、今は通説に従って一〇五一年としておこう。」(塘耕次『米芾 宋代マルチタレントの実像』 大修館書店 1999年)


参考書
[概説]
暦の会編『暦の百科事典』2000年版 本の友社, 1999 参考文献あり
[中国]
平勢隆郎『中國古代紀年の研究:天文と暦の檢討から』(東京大学東洋文化研究所報告 ;第18輯) (東洋文化研究所叢刊) 汲古書院, 1996
方詩銘, 方小芬『中国史歴日和中西歴日対照表』 上海辞書出版社, 1987
[日本]
内田正男編『日本暦日原典』第4版 雄山閣出版, 1992 電算機による計算

参考サイト
研究報告書「「自然という文化」の射程」
2002年12月2日京都大学大学院文学研究科主催国際シンポジウム「「自然という文化」の射程」の速記録
和辻哲郎の「風土」考 和辻哲郎「風土」のまとめ
兩千年中西歴轉換
台湾中央研究院計算中心の西暦換算表 西暦元年2月11日から2100年2月9日まで
暦相互変換
様々な暦の換算表。ユリウス通日、日本暦日、太陰太陽暦、グレゴリオ暦、イスラム暦、ユダヤ暦、エチオピア暦、チベット暦、ホビット庄暦、タイ佛暦、バリ=シャカ暦、マヤ暦の変換
 「中国の暦について」に解説がある

問題
例:緑と青の差異
フランスの「緑」信号、日本の「青」信号、中国の緑がかった「青」信号
この例のように、日常生活にみえる風土によると思われる差異をあげ考察せよ





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 風土と芸術の関係          2006.5.25作成 

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