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 北京信息

 山西省古美術旅行(北部)


         
    岩山寺入口
   
   

人々がもの憂げにつどうコローの風景画のよう 岩山寺の夕暮れ

   
 7月14日(金) 北京 大同
 7月15日(土) 大同 雲崗石窟
 7月16日(日) 大同 華厳寺 懸空寺 木塔 岩山寺 五台山
 7月17日(月) 五台山台内 顕通寺 菩薩頂 塔院寺 万仏閣
 7月18日(火) 五台山台外 南禅寺 仏光寺 広済寺 尊勝寺
 7月19日(水) 五台山 羅[目候]寺 太原
 7月20日(木) 太原 休息 清和元
 7月21日(金) 太原 純陽宮 山西省博物館(文廟)
 7月22日(土) 太原 平遥 山西民居 県衙 城隍廟 市楼 清虚観 城壁
 7月23日(日) 平遥 双林寺 鎮国寺 喬家大院 太原
 7月24日(月) 太原 晋祠 天龍山石窟
 7月25日(火) 太原 北京




7月16日(日)  岩山寺 五台山

分かれ道のある砂河から五台山の方向へ道をとってしばらくして、伊運転手が道を聞き始めました。どうも道が違うようです。
今まで快晴だったのが、この頃から雲行きがわるくなり始め、西の空の灰色の雲からは細く黒い雨あしが糸を引くように落ちているのがみえます。
岩山寺の悪路 何人かに聴いた結果、先ほど砂河の分岐点を西にいくと天岩村があり、そこに「壁画の寺」があるとのこと。直ちに引き返し、分岐点から公道を西にむかい五分ほどで右にまがり、何の目印もない農道のようなでこぼこの一すじの道を遠くの山に向って進み始めました。
これからが悪路でした。農民や子供が暇そうに腰かけているあまり豊かではなさそうな土壁の小さな村をすぎました。ここではありません。
さっき見えた雲の下に入ったのでしょう、どろの雨はおちてくるは、道はますます狭くでこぼこになるは。道の中央に出水の走ったあとのような深いえぐれが続き、車がはまりこまないよう慎重に進みます。
岩山寺悪路上の村 また貧しそうな村をすぎましたが、ここでもありません。
途中、一人の僧を追いこしました。皆これは岩山寺の僧に違いないと喜びましたが、聞くとただの托鉢の僧で岩山寺のことは知らないそうです。しかし僧に出会ったことで、何かにおいがしてきたように思います。雨も止んできています。
でこぼこ道は、山のふもとまで一直線に続きそこに寺があるように見えます。しばらく行くと道が右に折れはじめ視界が崖でさえぎられます。別れ道を右に進みやがてふもとの村、天岩村につきあたりました。むかって右端に紅く古びた寺の壁がありました。
これが岩山寺、時刻は3時半をまわっています。ここまでくるのに、でこぼこ道を4, 50分もかかったでしょうか。

さっそく車を止め、寺の門を叩きましたが、門は閉ざされたまま静まりかえっています。
ここまで来て運がなかったか、その場所に来れただけでも吉とするか、などと思いめぐらしながら、さらに叩いたり呼んだりしていると、木の扉が開き、眼がつぶれ歯が欠けた門番のような人が顔をだし、入ってよいといいます。
内は小さな建物がいくつか、雑然と散らかった中庭に、馬小屋のように扉をはずされ内部が見えてしまっている文殊殿がありました。今は数人の職人たちが建物の外部を工事している最中です。
開け放たれた建物の内部に入ると、中央の本尊などの塑像群は全てシートに覆われ見ることができませんが、壁画は間近に見ることができます。
壁はいちおう補修が終わっているようにみえ、南壁の西側部分の大半などすっかり塗り込められていました。壁画の遺る所も穴を新しく埋めたような跡があります。壁画はひどい痛みのため全体に白く膜がかかったように見えます。
この工事の監督官のような人民服の小さなおじいさんが入ってきて何か話しかけますが、なまりがひどく聞き取れません。さらに熱心に見ているとまた入ってきて李のような黄色い実を何個かくれました。
やがて今日の仕事を終えた眼のぎょろっとした職人たちも何人か来たりしました。山に近い場所は日暮れも近いのでしょうか、職人たちと一緒に寺の外に出され、門は再び閉ざされました。

先ほどの監督官のおじいさんの話では、今年の10月頃から公開されるだろうとのこと。国の重点文物の工事中のこと、普通は見れないはずのところ、間近に近寄って見ることを許してくれたおじいさんに感謝しなければなりません。
岩山寺パノラマ

白いフォルクスワーゲン     岩山寺             


岩山寺の道
五台山に入るには、もともと東西南北の4っつの門がありました。南門は虎牢関、閣子嶺、[厂虎]陽嶺にあり、現在の一般的な入山の道です。東門は険しい長城嶺を越えるもの、明の旅行家・徐霞客や清の康煕帝もこの道を通りました。北門は鴻門岩を通るもの、この道は危険です。今回はその側の東台頂を、車で一気に駆け抜けて来ました。西門は五台鋪上村と代県の間の峨峪嶺(がよくれい)を通る道です。嶺の上に玉皇廟があり仏教徒の信仰を集めてきました。モンゴルの仏教徒がはるばるやってやって来た時、同蒲路が開通する以前は、多くこの道をとりました。
岩山寺は、仏教徒が西門から入山する時の第一の接待所にあたる重要な場所でした。(以上、魏国祚編著『五台山導游』による)
実はあの悪路と呼んだ道は、昔はひとすじに続く巡礼の道だったのでしょうか。

岩山寺について
岩山寺は五台山の北麓、繁峙県城の東南40キロの天岩山の北のふもとの天岩村にあります。はじめ霊岩院と呼ばれ、創建は金時代の正隆三年(1158)、元明清の時代を通じて修理されてきました。現存するのは山門、鐘楼、東西の配殿、禅院など。南殿の文殊殿は、金時代の建元の修、寛さ5間、6垂木、単檐の頂、面積90平方メートル。殿内の仏壇上には、金時代の風格をもつ仏・菩薩・弟子・金剛力士などの塑像があります。
殿内の4壁の壁画は,金の大定七年(116年)、68歳の宮廷画家の王逵(おうき)が描きました。壁画の題記と碑文の記載によれば、王逵は皇帝の身辺にあった画工で、奉命により岩山寺にやって来て作画にあたり、10年の歳月をかけ構図を立意し心血を注ぎ壁画を残しました。
岩山寺壁画は、金時代の壁画の傑作であり、壁画の豐富な内容は、宋・金時代の宗教・建筑・美術の研究に欠くことができません。

東面壁画 鬼子母変相
岩山寺壁画鬼子母変相

鬼子母変相(全図)
東壁の壁画は、高さ3.45m、長さ11mの画面に、經変の故事と人情風俗のさまを描きます。楼閣や樹木、山石に雲はめぐり、寺や店鋪、車馬や人物など精緻です。遠くの宮殿の中には国王・太子・宮女などさまざまな様子をしています。宋・金時代の都市風俗を描いた一幅の歴史絵卷です。

岩山寺壁画鬼子母変相走旱驢 [走旱]驢
(クリックすると大きな画像が開きます)
岩山寺壁画鬼子母変相摩坊

摩坊

岩山寺壁画鬼子母変相
 
西面壁画 仏本行経変
岩山寺壁画仏本行経変

仏本行経変(全図)
南殿西壁の壁画は、仏伝故事のうち釈迦の一生を描きます。
高さ3m余、長さ11mの壁面に、主に一座の規模宏大な宮城を描き、城の内外に楼台・亭閣があり、その間に山水流雲を配しています。そうした配景の中に段を分け釈迦の仏伝故事を描きます。釈迦牟尼の降生、沐浴、習文、練武、深夜出走、游訪四門など。画面は渾然一体として、細部は個別に独立してもよく、大画面と連環画の構造が奇跡的に一体化しています。

岩山寺壁画仏本行経変太子投象 太子投象 岩山寺壁画仏本行経変射九重鼓 射九重鼓
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岩山寺壁画仏本行経変宮殿 宮殿 岩山寺壁画仏本行経変撃鼓報喜 撃鼓報喜
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岩山寺壁画仏本行経変酒楼市井 酒楼市井
(クリックすると、模糊としていますが大きな画像が開きます)

“村酒透瓶香”と書かれた幟のある酒楼のすぐ上には、商人のようす、盲人が占いをし、子供が玩び、酒客が听き唱うさまなどが続きます。『清明上河図巻』に比べられる場面。


北壁西側壁画
北壁むかって西の壁画は五百商人海上行船の場面を描きます。船はたちまち暴風にあい、波浪は滔滔、転覆しそうになった時、神話の人物である羅刹女が来たり波を静め船を救いました。構図や形は真にせまり、作者の観察力と嫻熟した技巧を示しています。

岩山寺壁画 蜃気楼の楼閣 蜃気楼の楼閣
(クリックすると大きな画像が開きます)

痛みのはげしい壁画の中でよく残っている所。楼閣は意外に小さく扇面におさまるほどの大きさ。界画(定規を使って描く絵)の技量をよく発揮しています。

北壁東側壁画
東側の角に宝塔と楼閣など一種の仏教のテーマを描いた壁画がのこっています。


南面壁画
東側の角に痕跡のみ、他はのこっていません。




岩山寺と五台山の遠望

五台山の遠望 はるかふもとにいま訪れた岩山寺がある




岩山寺を知るための本
 『中国美術全集』絵画編 寺観壁画
 柴沢俊・張丑良編『繁峙岩山寺』文物出版社1990
 柴沢俊編著『山西寺観壁画』文物出版社1997
 『世界美術全集東洋編 中国元時代』小学館
   宮崎法子「山西省の寺観壁画−北宋から元まで−」
   こんどの旅行ではこの論文をコピーして出かけました。






 7月14日(金) 北京 大同
 15日(土) 大同 雲崗石窟
 16日(日) 大同 華厳寺 懸空寺 木塔 岩山寺 NEXT→五台山
 17日(月) 五台山台内の諸寺
 18日(火) 五台山台外の諸寺
 19日(水) 五台山 太原
 20日(木) 太原 休息
 21日(金) 太原 山西省博物館
 22日(土) 太原 平遥
 23日(日) 平遥 太原
 24日(月) 太原 天龍山石窟
 25日(火) 太原 北京




  北京信息   2000.8.2写 2000.8.22更新

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