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 中国絵画史ノート 明暗と陰影について


中国絵画の特質については、最初に中国絵画オリエンテーションを参照
明暗と陰影は、各論のEにあたります


西洋の陰影法
空間内の物体を人間の目が認識した場合の、視覚の再現に不可欠の要素として
光線で物体を照らした時
物体それ自身の表面にできるものを陰 shade
物体が他の物体(主に地面)に生じさせるものを影 shadow
陰影 これらを描写する絵画の技術を陰影法と呼ぶ
光学と幾何学には陰影法の科学的な投影理論の図式 (陰影図法) がある

西洋の明暗法 キアロスクーロ
遠近法と密接に関わる自然主義のための絵画表現技法の一つ
暗部 (陰影部) と明部のコントラストにより物体の立体感と画中空間の空気を描く
イタリア語のキアロスクーロchiaroscuro は〈明暗〉または〈光影〉の意
                    (平凡社世界大百科事典)

[西洋の明暗法の歴史]
古代:ギリシア、ローマ
自然主義の描写技法の発展
個別モチーフごとの触覚的な量感を表すための明暗表現が発展
 古代ギリシアのニキアスとゼウクシスが創始者(アルベルティ《絵画論》)
空間全体の統一光線なし 夢の中の空間のよう 夜の描写
(西洋古典古代の光の比喩:プラトンの洞窟 『国家』vol.7)
 プラトンの洞窟の比喩は現代の映画館のよう!

中世:初期キリスト教美術およびビザンティン美術
個別モチーフごとの立体感を表す古代の明暗法を継承
絵画の平面化(金地の使用「金=光」、ステンドグラスの光)
中世の光の美学「神=光」による象徴的統一空間(神という光源からの光が遍く空間に偏在)
(比較:キリスト教=一神(1光源)←→仏教の光の仏・毘盧舎那仏=千仏)

ルネサンス:
フィレンツェ派(ジョット、マサッチョなど)
統一空間内を一方向の光源から照らす統一光線(西洋近代の明暗法の基礎)が登場
個別モチーフ相互の関連と空間を満たす空気を表す科学的陰影法が発展
L.B.アルベルティ《絵画論》(1435):光 (明) は白、影 (暗) は黒で表され、もっともすぐれた画家は白と黒で現実感を出せる
 →明暗による素描を絵画の骨格とするアカデミズム写実主義理論の基本となる(参照:日本の美術予備校における石膏デッサン)
15C末 画面外に光源をもつ光を空間内にあてその空間を描く明暗法が発展
ダ・ビンチのスフマートによる柔らかな光
 壁画の場合、現実の窓の位置からの光を想定する場合も(ダ・ビンチ《最後の晩餐》)
16C 画面内に光源を置き、同一画面に質のちがう数個の光源を描き〈光の戯れ〉を表現 (ラファエロ《ペテロの解放》、ティントレット《最後の晩餐》)
反宗教改革期 画面内の非現実的光源 (円光、神、聖霊) (エル・グレコ、コレッジョ)

バロック:
以上を総合した〈明暗様式〉の誕生
閉ざされた室内に強烈な〈地下室光線〉を当て表現力を強める(カラバッジョ、G.de ラ・トゥール)
その影響を受けた画家は〈テネブロージtenebrosi〉(夜景など暗部を強調 J.de リベラなど)と呼ばれ全ヨーロッパに流行
その頂点がオランダのレンブラントとフェルメール(光学機械の参照)
1681年イタリアの美術史家バルディヌッチFilippo Baldinucci (1624‐96) が単彩のグリザイユにキアロスクーロという名称を使う
フランス ロジェ・ド・ピール《絵画課程》(1708) 代表的な明暗法理論
18C 〈リュミニストluministes〉 (繊細な輝きの効果 ワトー)
自然光線の意識(ティエポロ、グアルディ、フラゴナールなど)外光派の先駆

19C 外光派とその発展としての印象派
視覚=光」という認識による統一空間(表面のみの空間
 近代の光学理論(写真の誕生)を背景
20C 絵画の平面化 自然主義的表現の衰退とともに明暗法も衰退
 光線と透視遠近法により統一された空間は、3DCGの空間に継承


中国の明暗法 内的な光
陰はあるが影がない
西洋の明暗法が外からの光を扱うとすれば、中国のそれは内から発する本質的な光(例えていえば行灯のような→イサムノグチのAKARI

古代の明暗:陰陽説
易に太極がある。ここから両儀(陰陽)が生まれ、 両儀は四象(四季)を生み、四象は八卦(天、地、山、沢、雷、風、水、火)を生み、 八卦は万物を生んだ。」《易経》繋辞傳

老子の玄(黒):陰と陽を「反」転する力学としての玄のまた玄
「玄之又玄」道徳1、「五色令人目盲」道12、「知其白,守其K」道28

荘子の光と影:罔両(うす影)と景(影)の問答(斉物篇、寓言篇)
火と日(光)とに、私(影)は屯(たむろ)し、陰と夜とには私は代る。
衆罔兩問於景曰、
若向也俯、而今也仰、向也括、而今被髪、向也坐、而今也起、向也行、而今也止何也。
景曰、
叟叟也、奚稍問也。予有而不知其所以。予蜩甲也、蛇蛻也、似之而非也。火與日吾屯也、陰與夜吾代也。彼吾所以有待邪、而況乎以有待者乎。彼來則我與之來、彼往則我與之往、彼強陽則我與之強陽。強陽者、又何以有問乎。
」『荘子』寓言篇
罔兩問景曰:
曩子行,今子止,曩子坐,今子起,何其無特操與?
景曰:
吾有待而然者邪!吾所待又有待而然者邪!吾待蛇蚹、蜩翼邪!惡識所以然?惡識所以不然?
」『荘子』齊物論

東晋陶淵明の形影神詩三首:形、影、神の三者の対話
形贈影(人の身体のはかなさ)影答形(擬人化された身体の影のユーモア)神釈(実在の世界へ)
南朝知識人社会の中の個の意識

[中国の明暗法の歴史]
六朝・隋唐:人物画の隈取
6C 人物画の顔や肉身に濃いくまどりをつけて立体感を表す技法 西域の影響
 →中国文化圏(朝鮮、日本など)に及ぶ
 参考:瞳の光の描写もある 正倉院鳥毛立女屏風第3扇の仕女
西洋の陰影法と異なり、光源の意識がない

五代・宋:山水画の明暗
多様な視点で自然を観察し、それらを総合した明暗の本質を描写
北宋 郭煕「林泉高致」山水訓
花の絵を学ぶ場合、一株の花を深い穴の中に置いて上からのぞいてみます。そうすると花の立体感がつかめます。
竹の絵を学ぶ場合、一枝の竹をとって、月の夜、白壁に影を写してみます。そうすると竹の真の形がつかめます。
山水の絵を学ぶ場合もこれと変りません。身を実際の山川に入ってその本質をつかみます。
山に明暗がなければ、これを「日影(日光)がない」といいます。
今、山に日がさす所は明、日のささない所は暗というのが、山の日影の一般的な形です。明暗の区別を描かないのは、「日影がない」といいます。

 参照:郭煕「早春図」 台北故宮博物院蔵
物が地に落とす影、水に映る影は、現象にすぎないものとして描こうとする意識が希薄
遠近法の場合と同様、一定に固定したままの視点で自然を観察しようとする意識がない
 例外:北宋 喬仲常「赤壁図巻」 ネルソン美術館蔵
           巻初の人物に落ちる影(赤壁賦の絵解き)
    南宋 馬麟「暗香疎影図」 台北故宮博物院蔵
           疎影横斜水清浅
           暗香浮動月黄昏 林逋「山園小梅」詩の絵画化

元・明:線描主体の文人画
諧調による陰影が表しにくい ひかえめな陰影

明末清初:西洋の影響
フランスのイエズス会宣教師が、北京と南京などで遠近法や明暗法などの西洋画法を伝える
曾鯨の人物肖像画:顔の描写に精細な輪郭→淡墨の明暗→淡彩
 波臣派として広まる
清時代:(1)西洋画法の宮廷画院画家への影響
古画の模写と西洋画法を学習 馬、珍しい動植物、戦争、皇帝后妃の容姿などを写す
西中折衷画風(主モチーフは西洋画風、背景は中国山水画)
画院に関わった西洋人:郎世寧 (イタリアカスティリオーネ)、艾啓蒙 (がいけいもう1708‐80ロシアシクルプス)
皇帝側近の高級官僚:蒋廷錫 (しようていしやく) (1669‐1732)、鄒一桂 (すういつけい) (1686‐1772)、銭維城 (1702‐72)、董邦達 (1699‐1769)、張若靄 (ちようじやくあい) (1713‐46)
在野出身の画院画家:黄鼎 (こうてい) (1660‐1730)、金廷標らの職業画工


(2)西洋画法の在野の画家への影響:金陵派 龔賢、樊圻、高岑など
宣教師の活動の中心地、南京の画家 宣教師がもたらした絵画や銅版画にみられる明暗法や構図、遠近感の影響
 参照:龔賢「千巌万壑図」 スイス個人蔵
 
全体に近世中国絵画への西洋の影響は一部に止まる

日本:
平安時代:中国の影響の中に日本人の光に対する感性がみえる
影みれば 波の底なる ひさかたの 空こぎわたる われぞわびしき  紀貫之
 (唐詩人賈島の影響、935年承平五年一月十七日『土佐日記』)
 現実:(旅の夜、舟の上から見ると) 月の光が 波の底に映っている
 幻想: 虚空を漕いで渡る 私がわびしく感じられる

江戸時代後期:西洋画法は洋風画家の間で研究される 司馬江漢、渡辺崋山ら
 幕末渡辺崋山の肖像画「鷹見泉石像」 東京国立博物館蔵


参考書
アルベルティ 絵画論 三輪福松訳 中央公論美術出版社 1992年
エルウィン・パノフスキー〈象徴形式〉としての遠近法 木田元,川戸れい子,上村清雄訳 哲学書房 1993年
中國哲學書電子化計劃 《道家

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 中国絵画の特質 明暗と陰影について   2002.9.24作成 

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