中国絵画史ノート 唐時代絵画史料

論顧陸張呉用筆
或問余以1.顧 2.陸 3.張 4.呉 用筆如何 對日
1. 顧愷之之迹緊勁聯綿循環超忽調格逸易風趨電疾
意存筆先畫尽意在所以全神氣也
2. 昔張芝學崔爰杜度草書之法因而變之以成今草
書之體勢一筆而成氣脈通連隔行不斷
唯王子敬明其深旨故行首之字往々継其前行世上謂之一筆書
其後陸探微亦作一筆畫連綿不斷故知書畫用筆同法
陸探微精利潤媚新奇妙絶在名高宋代時無等倫
3. 張僧繇點曳斫拂依衛夫人筆陣圖
一點一畫別是一巧鈎戟利劍森森然又知書畫用筆同矣
4. 國朝呉道玄古今獨歩前不見顧陸後無來者
授筆法於張旭此又知書畫用筆同矣
張既號書顛呉宜為畫聖神假天造英靈不窮

衆皆密於盻際 我則離披其點畫
衆皆謹於象似 我則脱落其凡俗
彎弧挺刃植柱構梁 不假界筆直尺
虫鬚雲鬢數尺飛動 毛根出向力健   (張彦遠『歴代名画記』巻2)

山水樹石画について
魏晋南北朝
魏晋以降の世にある名作はみな見た。山水の描き方については、山々の勢は螺鈿細工の櫛のようだ。水はものを浮べられない。人は山よりも大きい。おおむね樹石のモチーフを前景にもってくる。連なった樹は腕を伸ばし指を開いたようだ。古人の意をくめば、長所になることを表し流行には従わなかった。
隋・初唐
初唐の閻立本、閻立徳兄弟は建築工芸にすぐれ、楊契丹、展子虔は宮殿楼閣の絵に精通しており、山水の点景を漸く変化させた。しかしなお、石を描けば彫り刻んだ氷の破片や刃のようだし、樹は脈をけずり葉をきざみ、梧桐や楊柳を多く描く。工夫をこらすほど拙く見える。
盛唐
呉道玄は幼い頃から天分の筆力があった。しばしば仏寺の壁画に、怪石や逆巻く水流を描いたが、それは手で触ったり水を汲んだりできるようだった。また蜀(四川)の山水を写生した。
こうして山水の変は呉道玄に始まり、李思訓、李昭道に成った。
樹石画は、韋鶠がすぐれ、張璪が極めた。張璪はよく紫毫(兔の硬い毛)の禿筆(先がちびた筆)を用い、手を使って色を塗り、細部は装飾的だが、外は渾然一体となった画を描いた。
また王維の重深、楊炎の奇贍、朱審の濃秀、王宰の功密、劉商の取象の画などがすぐれている。樹石画の得意な作家はたくさんいるが、これらの人にはかなわない。
中唐
近代には侯莫陳厦や沙門の道芬がいる。精緻で密でありどちらも当時の俊秀である。
(張彦遠『歴代名画記』巻一)

王墨、顧姓 中唐の溌墨画家たち
王默は項容を師とした。風顛で酒狂いだった。松石、山水の画を描いた。高貴なところは乏しかったが、一般の俗な人が好んだ。酔った後、頭髪を墨につけ、絹にぶつけて描いた。
王默は若い頃、筆法を台州の鄭虔(広文)から授けられた(757年頃)。貞元末(804年頃)、潤州で没した。柩を持ち挙げると空のようであった。当時の人は皆「仙人になって飛び去った」といった。
生きている時もたくさん奇行があった。顧況(著作)が知新亭監だった時、海中都巡の職を願った。その理由を問うと「海中の山水が見たいから」といった。在職半年で解任され去った。その後、落筆した画には奇趣(すばらしい趣)があった。顧生(顧況)はその弟子にすぎない。私の従兄、監察御史張厚は私のために詳しくこの事を話してくれた。しかし私はそれほど王墨の画に奇があるとは思えない。
(張彦遠『歴代名画記』巻十 唐朝下)

王墨については、出身も名もわからない。溌墨を得意にし山水画を描いた。そのため当時の人は、王墨(墨の王さん)とよんだ。たいてい無頼の人と遊び、常に山水、松石、雜樹の画を描いた。性格は粗野なところが多く、酒を好んだ。
A. およそ屏風などの大きな画を描く時には、先ず酒を飲み酔った後、
B. 溌墨を行った。あるいは笑いあるいは歌いながら、足で踏み手でなで、あるいは揮いあるいは掃き、あるいは淡くあるいは濃く、
C. その偶然にできた墨の形にしたがって、山を描き石を決め、雲や水としていった。意のままに手が応え、はやきこと造化のようだ。雲霞を描きだし、風雨を染めだすこと、あたかも神技のようだった。
できあがった画を俯瞰して見ると墨の汚れのあとが見えない。皆「不思議だ」といった。(朱景玄『唐朝名画録』逸品)

大歴中(766-779年)呉の士、姓が顧というものがいて、山水画を描いて諸侯の家をまわった。
A. 描くごとに、先ず数十幅の絹を地にあつらえ、墨をすり色を用意して、各々を器に貯え、数十人の喇叭と太鼓の楽隊、数百人に声をそろえて叫ばせた。顧は錦の上衣を着、錦の頭巾を纏い、酒を飲み酔いがまわったところで、絹の周りを走ること十余巡りした。
B. 墨汁をとり絹の上にちらし、次いでさまざまな色をそそいだ。そして1枚の長い布でそそいだ所の1頭を覆い、人を座らせ、布を端を取って引き回した。十分引きずり回した後、
C. 筆をとり、引きずった後に偶然にできた形の勢いにしたがって、そそり立つ峰峰や島のようすを描き出した。
(『封氏聞見記』巻五 図画)

逸品三人 王墨、李靈省、張志和
王墨不知何許人,亦不知其名。善溌墨畫山水。時人故謂之王墨。多游江湖間,常畫山水、松石、雜樹。性多疎野好酒。 凡欲畫圖幛,先飮,醺酣之後、 即以墨溌。或笑或吟,脚蹙手抹,或揮或掃,或淡或濃, 随其形状,為山為石,為雲為水。應手随意, 若造化。圖出雲霞,染成風雨,宛若神巧。 俯觀不見其墨汚之迹。皆謂奇異也。
李靈省落托不拘檢,長愛畫山水。毎圖一幛,非其所欲,不即強為也。但以酒生思,傲然自得,不知王公之尊重。若畫山水,竹樹,皆一點一抹,便得其象,物勢皆出自然。或為峯岑雲際,或為島嶼江邉,得非常之體,符造化之功,不拘於品格,自得其趣爾。
張志和或號曰煙波子,常漁釣於洞庭湖。初顔魯公典呉興,知其高節,以漁歌五首贈之。張乃為巻軸,随句賦象,人物、舟船、鳥獣、煙波、風月、皆依其文,曲儘其妙,為世之雅律,深得其態。
此三人非畫之本法,故目之為逸品,蓋前古未之有也,故書之。
(朱景玄『唐朝名画録』逸品 画品叢書本)



参考書
張彦遠/長広敏雄訳注 歴代名画記 平凡社 東洋文庫305、311 1977年
中国古典文学体系54 文学芸術論集 目加田誠編 平凡社 1974年 歴代名画記訳
画品叢書 于安瀾編 上海人民美術出版社 1982年



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