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 My Profile (『日経アート』1998年5月号より)


今世紀最大の琴人、管平湖の世界に魅了された男

仕女図

「仕女図」1939 紙本墨画淡彩 18×49cm(扇面)
菱の実を舟から取ろうとする仕女の姿を描いている。
美人画のポピュラーな画題の一つ



 アメリカの惑星探査機ボイジャー。機体には、人類の遺産ともいえる様々な言語や音楽を録音したディスクが搭載されている。そのディスクの中で、アジアの音楽の代表として収録されているのは、今世紀最大の古琴(こきん)の名手と呼ばれる管平湖かんへいこによる琴(きん)の演奏だ。
 東京・千石にお住まいの荒井雄三さんは、管平湖(1897−1967)が描いた水墨画をコレクションしている。そう、古琴の大家は水墨画も嗜んだのだ。「琴棋書画(きんきしょが)といわれるように、中国の文人は琴だけでなく、書や絵も嗜んだのです。管平湖もその伝統にのっとって水墨画を描いてましたね」
 管平湖の父親は、清朝の宮廷画家・管念慈(かんねんじ)。管平湖は、その父から直接、絵の手ほどきを受けていた。
仕女図 「管平湖の琴は、北の流派で豪放にして構築的なのに、絵は繊細で柔らか。まったく対照的なんです。この両極を持ち合わせていることが、貧しさの中でも文人の琴棋書画の理想を実践した今世紀最大の琴人の魅力でしょう。彼の絵があることで生活が豊かになりましたね」
 そう、荒井さんは管平湖の芸術世界を語る。

仕女図 「仕女図」 紙本墨画淡彩 19.3×50cm(扇面)
繊細にして柔らか、管平潮の水墨画の魅力はここに極まれり




北宋の山水画へと恩いを馳せる

 荒井さんが中国の水墨画に興味を持ったのは学生時代にさかのぼる。
 東京芸術大学で美術史を学ぶ学生だった4年生の時に、アメリカのクリーブランド美術館とネルソン美術館のコレクションによる中国の水墨画の大規模な展覧会が、東京国立博物館で開催されたのだ。この時に、中国水墨画に魅了された荒井さんは、展覧会に出品されていた北宋の山水画の1点を卒業論文のテーマに選んだ。
「北宋の山水画は、中国絵画のメインストリームにあたるもの。それが今まで日本の歴史の中に入ってきてないのです。今まで日本では、中国の支流にあたるものばかりが知られてきた。故宮(博物院)が、台北・故宮となり一般公開されるようになって、僕などが目に出来るようになったのはごく最近のこと。北宋の山水画をまともに受けとめれば、新しい美術の展開が日本で起きるのでは、と考えるのです。
 僕が一番関心があるのは宋とか元のもの。しかし、それは手に入るものではない。本物で普通の人の手に入る範囲のもので、しかも作品ばかりでなく人間的に尊敬にあたいする人のものとなると管平湖でしょうね」
 管平湖の水墨画を通して、荒井さんは中国絵画の長い歴史へと思いを馳せる。



仕女図 支遁愛馬図 「仕女図」(左図)1924 絹本墨画淡彩 112×40cm
管平湖は、仕女図といわれる中国の美人画を好んで描いた。27歳の作









「支遁愛馬図」(右図 清時代の任頤の作品に倣う)1926 紙本墨画淡彩 131×37cm
「中国では男女の絵はあまり描かないのですが、この絵の、馬を女性と見立てると、一種のあこがれのような爽やかなおもむきが伝わってくるでしょう」と、荒井さんは解説する




書斎 中国に関するものでいっばいの生活、管平湖の扇面が遺和感なく収まる。普段は管平湖の掛け軸はしまっているが、時々、軸を掛け、1950年代に録音された管平湖のSP盤のCDに耳を傾けながら、その世界を堪能される。また、荒井さんは出版社で水墨画関連の書籍編集に携わる(当時)、主なものに
『古典に学ぶ水墨画』全4巻(江兆申監修)
『中国絵画のみかた』(王耀庭著)
『Looking at Chinese Painting』(Wang Yao-ting)
などがある(いずれも二玄社

ご自身、琴を嗜まれる荒井さん

秋月琴を前に






取材・文/今井丈彦 撮影/加藤丈博



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